信用リスク分析-借り換えリスク

借り換えリスクは、償還・返済期限を迎える債務のうち、余剰資金で賄えない金額の手当てに関わる不確実性を指す

当記事では格下げリスクを示唆する要因の一つとして紹介

  • 必要な資金手当てができない企業はデフォルトするが、信用格付けが付与されている企業の殆どは必要な資金手当ができており、デフォルトした事例は少ない
  • R&Iのデフォルト統計によると、ダブルB格以下の格付けを付与された発行体が5年以内にデフォルトした事例は約1割であり、大半の発行体はデフォルトしてない

発行体が調達する資金のデュレーションに着目

  • 信用力が劣化し、長い年限の資金調達コストが上昇している先は要注意
  • 調達する資金の償還・返済期限が短くなると債務のデュレーションが短くなり、一度に調達する金額が膨らむ分、借り換えリスクは更に高まってしまう
  • 借り換えリスクに関わる分析課題として、発行体が調達する資金の年限、資金コスト、担保の必要性、コベナンツの詳細などが重要になる

有価証券報告書に開示される、償還・返済期限を迎える金額(社債明細表、および借入金等明細表)と期待される償還・返済財源を比較

  • 今後、1年、もしくは2年に借り換えを必要とする金額を算出し、キャッシュフローや換金性の高い流動資産と比較
  • 更に、過去のデータと比較して下記のトレンドに着目
    • 借り換えを必要とする金額は増えてないか?
    • オフバランス債務は増加してないか?
    • 調達した資金の返済期限は短くなってないか?
    • 資金コストは上昇してないか?

手元流動性や自己資本に対して、償還・返済期限を迎える債務の金額が比較的大きく、業績・キャッシュフローが圧迫されている企業の信用力を分析する際に借り換えリスクはより重要な課題となる

  • 信用リスクが相対的に低い発行体の方が金融・経済・政治情勢のボラティリティの影響を受けやすい
    • 一般的にクレジットスプレッドがワイド化している状況下では、信用力が相対的に低い発行体への影響がより大きくなる
    • 平時においても、現在の超低金利水準が永久に続くわけではなく、いずれは上昇すると想定するのも無難
  • 収益やキャッシュフローと比較して負債残高が比較的大きい発行体(例:有利子負債/EBITDAが高い発行体)の、資金コスト上昇による支払利息増加の負担(例:カバレッジレシオや当期利益へのインパクト)は相応に大きくなる
  • 調達する資金の年限を短くすることで業績への悪影響を緩和できるが、借り換えリスクが更に拡大し悪循環になる

大企業の多くは無担保で資金調達を行っているため、担保を提供することによって新たな資金調達が可能になるが、解決策ではない

  • 担保資産及び担保付債務の残高が増えると、無担保債権者の立場が不利になるため、無担保での資金調達が困難になる、仮にできたとしても条件は悪化する
  • 担保資産が一定水準を超えると、破たん時における無担保債務と有担保債務の回収率の差を反映して格付けにノッチ差が課せられる
  • 更に、業績が悪化していると、事業資産の理論的価値に下方圧力が掛かるため、調達可能額が縮小する可能性がある

資金調達が困難になりつつある発行体は、増資や資産売却を早期に実施することでデフォルトを防ぐことが可能だが、足元を見られている分、条件は不利になる蓋然性が高くなってしまうため、問題が深刻になる前に実施する考え方もある

あらゆる状況下においても返済年限の長い資金へのアクセスを確保し続けるためには、明確なクレジットストーリーを格付け会社や金融機関に示す必要がある