財務リスクの拡大を容認する経営判断

信用格付けが比較的低く、負債構成比率や間接金融への依存度が比較的高い企業によって、借り換えリスクや金利上昇リスクの拡大を容認する傾向が見受けられる

日系格付け会社によってBBB格クラス以下の格付けが付与されている発行体には、収益性や事業リスクなどに関して一定の課題がある先、相対的に負債残高が大きい先などがあり、借り換えリスクや金利上昇リスクが顕在化すると、資金繰りや業績等への悪影響が拡大し易くなる

既に、1パーセントを大きく下回る長期金利が更に下がるにも限界があり、中長期的には上昇する蓋然性が高まってきている環境下でも、長期固定金利の資金調達を増やしてリスクを抑制する発行体は数少ない

借り換えリスクや金利上昇リスクを減らす必要性を認識している先でも、資金コストの増加負担などと天秤に掛けた結果、実施しないという経営判断を下していると推測

 

状況分析

  • 格付けが下がるにつれて、自己資本や収益に対して有利子負債の比率が高まるだけでなく、有利子負債の返済期限が短くなる傾向があり、毎年満期を迎える金額は増加してしまう
    • 満期を迎える債務の額は余剰資金を大幅に上回るケースが多く、借り換える必要がある
    • 平時であれば、例え、業績が多少悪化していても金融機関から必要な融資を受けられる蓋然性が高いが、業績が著しく悪化している先や金融危機的な状況が起きている状況の際には、思ったように資金調達ができないリスクが高まる
    • このような発行体は、自己資本やキャッシュフローに対して必要調達額が大きくなる傾向があり、借り換えリスクが顕在化しやすくなる
  • 例え、必要資金の調達ができたとしても、クレジットスプレッドやベース金利が上昇している場合は、資金コストに反映されてしまう
    • クレジットスプレッドは、格付けが低いほど変動が激しくなる傾向があり、借入を行う時の状況に影響されやすい
    • 銀行借入は基本的に変動金利であり、金利上昇リスクは借り手が負う習慣になっている
    • キャッシュフローに対して調達金額が大きい分、業績、流動性、インタレストカバレッジレシオ等に与える影響も相応に大きくな
  • 日系格付け会社によってBBB格クラス以下の格付けが付与されている発行体の債務償還スケジュールに注意を払う必要がある
    • 国内債券市場にて調達可能な金額に限界があるため、金融機関への依存度が高まっている先が多い
    • R&IはBBB格を「信用力は十分であるが、将来環境が大きく変化する場合、注意すべき要素がある」と定義づけており、複数のリスクが顕在化すると債務履行能力に問題が発生するリスクが高まることを意味する

「アベノミクス」と呼ばれる政府の経済政策が、上記のリスク回避を実施する重要性を高めている

  • アベノミクスの効果を正確に予測できる人はいないが、中長期的に金利が上昇する蓋然性が高まっていることは予想しやすい
    • 金融緩和の効果で短期的に金利は低下しているが、計画どおりに日本経済が活性化されれば、インフレと共に金利は上昇するはず(「良い金利の上昇」)
    • 一方、期待されているほどの経済活性化効果がない場合は、日本国債の信用力低下に伴って金利が上昇するリスクが高まる(「悪い金利の上昇」)
    • 「良い金利の上昇」になる状況下では、金融機関や企業の収益も底上げされることが期待できるため、金利負担が多少増えても問題になりにくいが、「悪い金利の上昇」になる状況下では、業績が落ち込む金融機関や企業が増え、深刻な状況に陥る先が増える蓋然性が高まる
  •  「悪い金利の上昇」に備えるためのリスク管理手法として、負債構成を固定金利のより年限の長いものに切り替える方法がある
    • 「悪い金利の上昇」が実現することを想定した業績や資金繰りに対するダウンサイドリスクを軽減するための「保険料」として、短期的に高めの資金コストを負担する考え方
    • 格付けの高い会社は資金コストが低いため、このようなリスク管理を実施しやすい状況にあるが、格付けが比較的低い企業にとって、メリットとコストが相応に高くなるため、実施するかだけではなく、実施しないのも重要な経営判断になる